先延ばしして自分を責めたのに、なぜ翌日もまた先延ばししてしまうのか

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私たちは先延ばししている瞬間にも、実は何かを得ています。

でも、そのつかの間の気楽さのせいで、次の日も同じことが繰り返されるのでしょうか?

だとしたら、先延ばしのあとに必要なのは、もっと強い決意ではないのかもしれません。


やるべきことがあるのに、つい先延ばししてしまいます。報告書を開かなければいけないのにスマホを見てしまい、勉強を始めなければいけないのに、急に別のことが気になりだします。

そして夜になると、こう思います。

「明日こそ、本当にやろう」

そこにもうひと言、付け加わります。

「なんで自分はこんなに怠け者なんだろう」

ところが、先延ばしを扱った研究の一部では、こうした先延ばし癖を単なる怠けでは説明していません。

大事なのは、やるべきことそのものよりも、その作業を思い浮かべたときにどんな気分になるかなのかもしれません。

夜の窓辺の机に顔のない人物が座り、片手を自分の肩に置き、もう片方の手にオレンジ色のメモを一枚持っている。机の上には丸めた灰色の紙がいくつも転がっている

先延ばししている間、私たちは何を避けているのか

先延ばししている間に私たちが避けているのは、やるべきことそのものよりも、それを思い浮かべたときに一緒に湧いてくる、何から手をつけていいかわからない感じや不安、疲れといった嫌な気分なのかもしれません。

報告書のことを考えると、頭に浮かぶのは報告書だけではありません。

「これ、いつ終わるんだろう」

「うまくできなかったらどうしよう」

「どこから手をつければいいんだろう」

「考えるだけで疲れる」

こうした考えや気持ちも、一緒に湧いてきます。

ふだん私たちは、それをひとつずつ区別したりしません。まとめて「やりたくない」と感じるだけです。

でも、少しよく見てみると違います。

何から手をつけていいかわからないのかもしれないし、うまくできないのが不安なのかもしれないし、やるべきことが大きすぎるように感じているのかもしれません。

ここで、すぐに解決しようとするより、一度立ち止まって確かめてみることができます。

「あ、いま避けているのは、やるべきことそのものだけじゃないんだ」

Sirois と Pychyl は2013年の論文で、先延ばしを単なる時間管理の失敗としてではなく、目の前の嫌な気分をやり過ごそうとする行動と結びつけて説明しました。

やるべきことを思い浮かべたら、気分が重くなる。

だからスマホを見る。別のことをする。動画をひとつ見る。

すると、やるべきことはそのままなのに、気分だけは少し楽になります。

ここで、先延ばしが少し違って見えてきます。

私たちは先延ばししている瞬間にも、実は何かを得ています。

つかの間の気楽さです。

問題は、その気楽さがタダではないということです。

今日の午後の自分が避けた報告書は、今夜の自分に回ってきます。今日の自分が避けた勉強は、試験前日の自分に回ってきます。

今の自分が気の重さを避けた代償を、未来の自分が払っているわけです。

だとすれば、解決策は簡単そうに見えます。

自分をもっと厳しく追い込めばいいのではないでしょうか。

「しっかりしろ」

「なんでまた先延ばししたの」

「今度こそ本当にやらなきゃ」

ところが、ここにひとつ気になる実験があります。

テストの出来が悪かった学生たちに、どんな言葉を読ませたのか

2012年のカリフォルニア大学バークレー校の実験では、テストの出来が悪かった大学生のうち、あるグループが「あなただけではない、よくあることだ、自分に厳しくしすぎないで」という趣旨の短い文章(セルフ・コンパッション)を読みました。

UC Berkeley の Juliana Breines と Serena Chen は、失敗のあとに自分をどう扱うかが、次の行動にどう影響するのかを実験で調べました。

ある実験では、まず大学生86人がかなり難しい単語テストを受けました。平均点は10点満点で約4点でした。

そのあと学生たちは、次のテストに出る単語を好きなだけ勉強することができました。研究チームはこの勉強時間を測りました。

その前に、あるグループはこんな趣旨の文章を読みました。

さっきのテストが難しかったなら、それはあなただけではありません。こうしたテストを難しいと感じる学生はよくいます。結果が気になっているなら、自分に厳しくしすぎないでください。

興味深いのは、その中に「次のテストに向けてもっと勉強しましょう」という言葉が一度も出てこないことです。

別のグループは何も文章を読まず、さらに別のグループは「バークレーに入れたということは、あなたは頭がいいということです」といった、自己肯定感を高める文章を読みました。

結果はどうだったでしょうか。

セルフ・コンパッション(自分への思いやり)の文章を読んだ学生たちは、次のテストの準備に平均で約5分を使いました。

何も読まなかった学生たちは、約3分20秒でした。

自己肯定感を高める文章を読んだ学生たちは、約3分50秒でした。

勉強しなさいと背中を押す言葉ではありませんでした。

それなのに、「自分に厳しくしすぎないで」という言葉を読んだ学生たちのほうが、かえって長く勉強していたのです。

ただし、次のテストの点数までは変わりませんでしたし、測ったのも先延ばしではなく勉強時間でした。「頭がいい」という文章を読んだグループとの差も、統計的にはっきりした差とは言えませんでした。Breines & Chen, Personality and Social Psychology Bulletin, 2012.

ここで、ひとつ疑問が湧きます。

なぜそうなったのでしょうか。

失敗を認めることは、自分を責めることではない

先延ばししたという事実を認めるのは、起きたことを確かめることです。先延ばしした自分を責めるのは、その出来事を根拠に自分をおとしめることなので、両者は同じではありません。

「今日もまた先延ばしした」と「なんで自分はこんなに意志が弱いんだろう」は、まったく別の文です。

前の文は、何が起きたかを言っています。

後ろの文は、その出来事を根拠に自分自身を評価しています。

もし最初から、嫌な気分を避けるためにやるべきことを先延ばししていたのだとしたら、そこに自分を責める気持ちまで加われば、気の重さがもうひとつ増えることになるかもしれません。

だから、先延ばししたことに気づいた瞬間に、すぐ自分を分析したり叱ったりする必要はありません。

「今日もまた先延ばししちゃったな」

ひとまず、その一言だけで止めておくことができます。

なかったことにする必要もなく、あれでよかったと自分に言い聞かせる必要もありません。

ただ、問題はまだひとつ残っています。

気持ちが少し楽になったからといって、明日自動的にやるべきことに取りかかれるわけではありません。

では、次の行動はどう決めればいいのでしょうか。

「明日やろう」に欠けているひとつのこと

「明日やろう」には、何をするかはあっても、いつ始めるかが抜けています。そのため、次の日が来ても、始める合図がありません。

私たちはよく、こんなふうに計画を立てます。

「明日、報告書をやろう」

「明日から勉強しよう」

「今度こそ絶対に始めよう」

問題は、何をするかは決めたのに、いつ始めるかは決めていないことです。

次の日の朝は忙しく、昼ごはんを食べると少し休みたくなり、午後には別の用事が入ります。

そして夜になると、また言います。

「明日こそ、本当にやろう」

心理学では、こうした問題に向き合う方法のひとつとして「実行意図(いわゆる if-then プランニング)」が研究されてきました。

やり方はシンプルです。

「報告書をやらなきゃ」ではなく、「明日の夜8時になったら、報告書のファイルを開く」というふうに、状況と行動をあらかじめ結びつけておきます。

Gollwitzer と Sheeran が2006年のメタ分析で94件の独立した検証をまとめた結果、目標を実際の行動に移すうえで、実行意図には中程度から大きめの効果が報告されています。

「やらなきゃ」と「8時になったらファイルを開く」の違いは、小さく見えます。

でも「やらなきゃ」は、明日の自分がもう一度決心しなければいけません。

一方「8時になったらファイルを開く」には、行動を始める合図が入っています。

それに、最初の一歩を大きくする必要もありません。

「2時間集中して終わらせる」ではなく、「ファイルを開く」くらいで十分です。

終わらせるのは、その次の話です。

8時を指す壁掛け時計の下、閉じたノートパソコンの上にオレンジ色の付箋が一枚貼られ、まわりに丸めた灰色の紙がいくつも転がっている

今日また先延ばししてしまったら、どうするか

今日また先延ばししてしまったら、自分を責める代わりに三つのことを試せます。何から手をつけていいかわからなかったのか、うまくできないのが不安だったのかなど、何が嫌だったのかを一度見てみること。「今日もまた先延ばししちゃったな」という事実で止めること。そして「明日の夜8時になったらファイルを開く」のように、始める瞬間をひとつ決めることです。

今回紹介した研究は、ひとつの「先延ばし解決の公式」を試したものではありません。

先延ばしと感情の調整を扱った研究、失敗後のセルフ・コンパッションを扱った実験、実行意図を扱った研究が、それぞれ別々にあります。

それでも、三つの研究を並べてみると、ひとつの方向は見えてきます。

今日また先延ばししたからといって、すぐに「なんで自分はこうなんだろう」と自分を追い込む必要はありません。

まず、何が嫌だったのかを一度見てみます。

何から手をつけていいかわからない感じだったのか、うまくできないのが不安だったのか、やるべきことが大きすぎるように見えたのか。

そして、事実だけを残します。

「今日もまた先延ばししちゃったな」

そのあと、大げさな決意の代わりに、始める瞬間をひとつ決めます。

「明日の夜8時になったら、ファイルを開く」

これで先延ばしが一気になくなる、とは言えません。

ただ、研究から見えてくることはあります。

自分をもっと責めるより、いま何を避けているのかを見て、失敗を必要以上に大きくせず、次の行動を具体的にすること。

今夜は、それくらいで十分なのかもしれません。

まとめ

先延ばしは怠けだけでは説明できず、やりたくない作業を思い浮かべたときに生じる嫌な気分を一時的に避ける行動として説明されており、代償は後の自分が払うことになります(Sirois & Pychyl, 2013)。

2012年のカリフォルニア大学バークレー校の実験では、テストの出来が悪かった直後に「あなただけではない、よくあることだ、自分に厳しくしすぎないで」というセルフ・コンパッションの文章を読んだ大学生が、何も読まなかった学生より次のテストに向けて長く勉強しました。ただし実験で測られたのは勉強時間で、次のテストの点数に差は出ませんでした。

「明日やろう」ではなく「明日の夜8時になったらファイルを開く」のように始める瞬間と行動をあらかじめ決めておく実行意図は、94件の検証をまとめたメタ分析で、目標を実際の行動に移すうえで効果が示されています(Gollwitzer & Sheeran, 2006)。先延ばしした日には、何が嫌だったかを確かめ、「今日もまた先延ばしした」という事実で止め、始める瞬間をひとつ決めるという三つのことを試せます。

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